「エースをねらえ!」は爽やかなスポーツ漫画ですが、「シニアマネーをねらえ!」はお金持ち?とされる高齢者の金融資産を対象としたビジネスに賭けるものたちの物語です。ここには岡ひろみもいなければ、勿論、お蝶夫人などという麗しい方も登場しないのです。

ちなみに、1973年の「エースをねらえ!」連載開始のときに県立西高等学校に入学した岡ひろみは(恐らく)1957年生まれですから、今年65歳になります。今の中高年より、少しばかり先輩という訳です。「ひろみ先輩っ!」って感じですかね、気持ち悪る。

日本では富裕層と高齢者に富が偏在しています。中でも高齢者が持つ金融資産=シニアマネーを日本国中、否、世界が狙っています。そして、資産を保有する高齢者に断りもなく、各所で「高齢者の持つ金融資産の流動化」とか「金融資産の活用」などと香ばしい議論が盛んにされています。少しやましい構想なので、当事者には内緒にしておいた方がいいかも知れません。

それで、日本経済浮揚の最後の望みの様に語られる「シニアマネー」の周辺を少し掘ってみたのです。すると、シニアマネーの規模に関して、こんな記事が2021年12月20日にありました。

約2千兆円もの金融資産は、だれが持っているのか。資金循環統計は家計全体での数字しかわからないが、ほかの統計などをもとにした大和総研の推計によると、全体の約63%を60代以上が持つ(19年時点)。30年には約65%まで高まる見込み。資産が高齢層に偏り、子育てなどにお金が必要な世代に資産がなかなか移らないことが課題で、現実には高齢者から高齢者へ「老老相続」が進んでいる。

引用元:朝日新聞デジタル「2千兆円目前、個人マネー急増 60代以上が6割、氷河期世代と格差」
https://www.asahi.com/articles/ASPDN72CCPDKULFA028.html

確かにこのお金(2,000兆円×63%=1,260兆円)が動けば随分と景況感がよくなりそうです。それで「シニアマネーをねらえ!」という訳です。

但し、当たり前ではありますが、「高齢者を見たら、みんな金持ちだと思え」ということではないのです。

以前のエントリでご紹介しましたが、金融広報中央委員会の調査(2020年)によると、「60代世帯の平均貯蓄額は1,745万円で、中央値は875万円」という結果が報告されています。
ところが同じ調査で、60代世帯で貯蓄額が「3000万円以上」の人(19.6%)と「貯蓄ゼロ」の人(18.3%)がほぼ同数存在することも明らかになっています。実際には格差があったのです。
また、高齢富裕層は『高齢者から高齢者へ「老老相続」』を繰り返すので、この格差は世代が交替する度に益々広がっていきます。「お金持ちはお金を減らさないからお金持ちだ」ということがよく分かります。

つまり、シニアマネー(1,260兆円)は高齢富裕層の金融資産を中核として形成されたものであろうということになります。

一方で、現在シニアマーケティング(高齢者向けビジネス)という言葉で語られるビジネスの多くは、高齢者が金融資産を取り崩すまでもなく、「高齢者の生活費」において費消されるものです。生活補助、自立支援、老化防止、認知症防止、快適生活支援といったビジネスです。
それでも医療費なども含む市場規模は2025年には100兆円になるとされており、こちらも十分に宝の山と言えます。(みずほ銀行産業調査部調べ)
ちなみに100兆円というのは「メタバース」(仮想現実世界)における2028年の関連市場規模とされているものとほぼ同じですので、シニアマーケティング恐るべしです。(出典:カナダのエマージェン・リサーチ社予想)

それでは金融資産として、なかなかに溶け出さないシニアマネーをターゲットとしたビジネスとしては何があるかと言えば、
シニア向けの資産運用サービス(ここにシニアマネーを引っ張り出すのがメインか)
●シニア向け住宅、シニア向けマンション
●高級有料老人ホーム などが挙げられます。
この中で、高級有料老人ホームの費用ですが、5年間で5,000万円というところが、「高級」の目安の様子です。恐ろしくゴージャスです。夫婦二人で5年で1億、20年で4億… 流石に超富裕層の方々であっても、費用として金融資産を切り崩す必要があるのかも知れません。えっ、痛くも痒くもない? 失礼しましたぁ。お金持ちのことは分かりません。

最後に私もちょっと贅沢な高齢者向けビジネスを考えてみました。
「見守り監視付き自動運転による旅行サービス」というのは如何でしょうか。
旅行の荷物を整えて玄関先で待っていると、自動運転の車があなたを迎えに来ます。あなたと同行する方が車に乗り込むとするすると車は走り出します。そして、目的地に向けて、車は安全に自動運転を続けます。途中、休憩をしたくなれば、一言「疲れたな」と言えば、道の駅でもドライブインでも車は停車します。また、車窓からの景色を眺める中に寄り道をしたくなっても自由自在です。車内のモニターにあなたの子供や孫が遊びに来ることもできます。まるで、一緒に旅をしているかの様です。

そして、宿泊地に到着すれば、車から送られてきた到着予想時間データに基づき、ホテルマンが既に玄関に待ち構えおり、一切のチェックイン手続きが不要で、あなたの荷物を部屋まで運んでくれます。
また、帰路につき、自宅の玄関を開けるまで、あなたの安全はずっと見守り監視されているので、事故やトラブルに巻き込まれても安心です。勿論、あなたが不在の間の家の様子もきちんと監視されています。

旅行後は車載のカメラ、ホテル内のカメラで撮影した映像がAIにより編集され、あなたのスマホやパソコンで簡単に見ることができます。あなたが主役のロードムービーです。オプションで上空のドローンから撮った、あなたが乗った車の映像まで差し込むことができます。

「誰にも迷惑を掛けず」「面倒な手続きや交渉は一切無く」「事故を起こす心配がなく」「勝手気儘に」「家来はいないけれど王様の様に」旅をする。しかも、これがコミコミで「2泊3日で50万円」。どうでしょ、どこぞの旅行代理店さん、新しいビジネスとして実現してくれませんかね。

 

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