野性動物の絶滅を心配する私たちが「退職金の絶滅」を心配しないのは何とも不思議です。まぁ、早期退職をして、昔よりも額が少ないとは言え、絶滅前に辛うじて退職金を保護することができた私が言うのも何ですが…
厚生労働省の「就労条件調査」(最新:平成30年/2018年、大体5年おき)によると、大卒者の定年退職者(勤続20年以上かつ45歳以上)の退職金平均額は、2017年で1,788万円です。そして、過去20年間に遡ってデータを追いかけるに何と1,100万円近くの減少なのです。(1997:2,871万円、2003:2,499万円、2008:2,323万円、2013:1,941)
※出典:厚生労働省 平成30年就労条件総合調査 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/18/index.html
この金額はあくまでも平均なので、「うちはもっと多いよ、うっしっし」という人やハンカチの角を噛んでしまう人など、いろいろなケースがありますが、最新の調査から既に3年が経過した現在、更なる減少が予想され、既に絶滅している企業すらありそうです。
そもそも「退職金」というのは義務なのか? 会社からの誠意なのか? という「はじめの一歩」に立ち返ります。ずばり、義務ではありません。会社に「退職金給付制度」がなければ、退職金は支払われないのです。
前出の厚生労働省の調査によると退職給付金制度(一時金・年金)がある会社は80.5%であり、10社に2社は額の多寡以前に「退職金制度」がないのです。しかも、会社側は今後も「退職金給付制度の見直し」に前向きなのです。
2001年に導入された確定拠出年金制度は「会社が決まったお金を出すから、後は増やすも減らすもあなた次第」というものであり、徐々に導入する企業が増えていて、従来の退職金給付制度との二本立てから、今後は確定拠出年金メインに移行していくのかも知れません。
何故、退職金の大幅な減額が大した社会問題、もしくは「会社問題」として大騒ぎされないのでしょうか。だって、退職金、大事ですよ。これが無かったら、不幸な中高年が今以上に街に放流されてしまうのですから。
理由1:いろいろな「それらしい理由」をつけて、社会全体が退職金の減少を何となく容認してしまっている風潮が背景にあること。
例えば、「株主至上主義」にあって、企業業績を高めるために従業員の賃金/退職金が抑える必要があるからという説明、納得できます? まぁ、何となく納得しちゃう訳ですよ。
例えば、当社は成果主義に移行しており、会社に貢献した社員には現役時代に手厚く給与を支払う制度に変更したという説明、納得できます? まぁ、こちらも上に同じく。
例えば、2000年に退職給付会計基準が導入され、会社が将来支払うべき年金にかかるコストを時価評価する制度に基づく負債差異がオンバランスされることになり退職給付制度を見直したからという説明、納得できます? 何だか、分かりませんが、もういいです。
理由2:本当の大騒ぎされない理由は、「従業員の無関心」にあること。
日本FP協会の「世代別比較 くらしとお金に関する調査2018」によると、
退職金を受け取る予定がある人(441 名)に、自身が受け取る退職金の金額をどのくらい知っているかを聞いたところ、『把握している』は 47.6%、『把握していない』は 52.3%となり、把握していない人のほうが多いことがわかりました。
※出典 日本FP協会 世代別比較 くらしとお金に関する調査2018 https://www.jafp.or.jp/about_jafp/katsudou/news/news_2018/files/newsrelease20181105.pdf
まぁ、かくいう私も早期退職を考え、「これからのお金の計算」をすることになって、はじめて幾ら退職金がもらえるかを知った訳です。しかも、「そんなものなのね、どうせ辞めるんだから、ありがたく頂戴します」というあっさりとした感想しか出て来なかったのです。何だか「もらえるだけラッキー」という感じです。
私たちが無関心なのは「退職金」だけでなく、「年金」に関しても同じなのです。50歳以降の「ねんきん定期便」に書かれている「受取予想額」を見て、「そんなものなのね、ありがたく頂戴します」というだけなのです。
日本人的な美徳である「最後はキレイに終わる」と「無関心」(金額の多寡を気にしない)が、退職前、現役引退前に奇妙にシンクロしてしまうのです。
そのくせして、漠然と老後が不安という感想はもっているのです。上記の日本FP協会の調査委によれば、「老後のくらし」に対して安心しているか、不安があるか聞いたところ、『安心」が 26.1%、『不安』が 73.9%だったそうです。なかでも『不安』の割合が最も高かったのは 30 代(85.0%)でした。今の30代、きっと、暗い未来が頭の中に渦巻いているのです。年金は出ない、退職金は出ない、さて、どうしたものでしょうか。貯めますか? 増やしますか?
確かに20年前に今より1,000万円も多くの退職金をもらったら、新車を買ったり、世界一周のクルーズ船に乗ったりして、それなりの「定年退職の夢」が見られたのでしょう。それに当時は定年退職すれば、すぐに公的年金の給付が待っていたのです。うらやましいことです。
一方で、最近の調査では、退職金の使い道で最も多いのは、生活に余裕がある人は「投資」、余裕がない人は「日々の生活費として取り崩す」なのだそうです。ボーナスのみならず、退職金までしっかり「生活給」に組み込まれているのが現状です。
「昔は退職金という制度があってね」と語る未来は案外と近いかも知れません。誰か「退職金」保護基金でも立ち上げないかしらん。