今はどうなんだろう。コロナ禍の前までは盛んに「セミナー」やら「カンファレンス」なんてものが開催され、会社で大して仕事のない人たちにとって、オアシスなようなものだったのです。いいじゃないですか、会社にいても邪魔になるだけなんだから、空調の効いた立派な広間でよく分からない話を子守歌替わりにしてウトウトしても。
オーケストラの演奏が始まる前に、それぞれの楽器が微妙なチューニングのために音出しをする。そして、会場も何となくザワザワしている。あの時間が大好きで、極端に言えば、ずっとあれを続けてくれてもいいぐらいです。何だか限りなく「自分が誰からも見えない存在」ではあるものの、その場所にいることが許されている、そんな安心を覚えます。
何故そんな状況が好きなのかなんて分析はどうでもよくて、ざわざわとした人がいる気配がしていて、創作の意図に基づかないノイズがあって、涼しくて、適度にガラガラ、そんな状況が快適な訳です。ホテルのロビーもいいのですが、何か音楽が流れていると台無しです。大きな病院の天井の高い待合室、これはかなり魅力的です。余り病気がちなのも困りますけれど。
退職後の生活って、何となく「こんな空虚感」の中で生きていると考えれば、随分と快適にも思えてきます。一番近い存在って「幽霊」ですかね。音もなく、例え存在していても、誰にも気付かれない。
ちなみに「幽霊にも寿命がある」って知っています? 何でも400年前以上の幽霊には出会えないのだとか。関ケ原周辺で落ち武者の幽霊に出会ったという話も減っているらしいですよ。イギリスでも「700年程度」で、幽霊の残存エネルギーが尽きてしまうという報告がされているそうです。そうですよね、そうじゃなきゃ、周囲一帯が「幽霊」で溢れてしまいます。
大したことをしてはいませんが、たまに仕事に行くので、そのときはこんな優雅なことも言っていられずに「あくせく」しては、ふーっと大きく息をついてしまいます。「幽霊」のままで好きな本でも持って、気持ちのよい場所で時間を過ごす。贅沢を言い過ぎですかね。それとも、いっそ入院でもしちゃいましょうか。