「コンサルタントとはテニスの壁打ちの壁なのです」去年の3月に早期退職をするまでの間、前にいた会社で何度か仕事をお願いをしたことがあるコンサルタントの方が成る程と思えることを話していたことをふと思い出しました。
その方(Aさんとします)のコンサルティングスタイルは企業において意思決定をする立場の人、大きなプランを動かす立場の人と会話をし、その立場の人たちが納得して、迷いなく自分の仕事を成し遂げられる様に、そもそもその人たちが抱いていた考えや思いをきちんと整理し、絡み合った糸をほぐすというものでした。Aさんは多くの企業の経営者から大事にされていたのです。
どんな人でも「こうしたい」「ああしたい」というプランをもっています。ましてや経営者ともなれば、これまでに重ねてきた経験や優れた直感に導かれて、半ば「やらねばならないこと」は見えているのです。けれど、これが独善に走っていないか、周囲の人たち(ステークホルダー)が共感し、共に「自分事」として大事にしてくれるか。その確信を得るために、経営者はAさんを相手にテニスの壁打ちをしていた訳です。
さて、この「壁打ち」が成立するには、幾つかの条件が整う必要があります。先ず、相手が尊敬できること、信頼でき自然と好意が持てること。そして、こちらが打ったボールをきちんと返してくれること、それも、こちらが多少打ち損じたボールであってもです。こんな相手に自分の考えやプランを話すことで、それがどの様なものであるか改めて客観的に見つめることができ、納得し、やがてプランをやり抜く確信に至る。これは幸せなことです。
こんな相手が周囲にいるなどという僥倖は滅多にあるものではありません。チョコボールで金のくちばしに出会うよりも、何倍も、何千倍もあり得ないことなのです。経営者だけでなく、多くの人にとって本当に必要なのは素晴らしい知恵を授けてくれる人ではなく、「壁打ちの壁」だと私は思うのです。人は自分の考えにしか、結局は納得しないのですから。
特に中高年ともなれば、いろいろなことがあったにも関わらず「この年まで生きてきた」のです。今更、その場しのぎの流行りの生き方や、処世術などを目にしても、「そうですか」と納得もせずに受け入れることはできません。(他の人はともかく、私は)
それでは、中高年はどの様に壁打ちをしましょうか。私はこんな壁打ちをしています。
「自分が読みたい本を見つけ、読みながら気にいった箇所に付箋を貼り、読み終わったら、付箋の箇所の文章を自分が何でそこが気に入ったのかも書き添えてノートに転記する」 不思議なことに、そのとき読んだ本の中には「そのとき自分が考えていたこと、こうしたいと思っていたこと」を整理してくれる鍵が眠っているのです。
そうです、恐らくみんなと同じことをしているのです。まぁ、おじいさんですから、壁打ちもマイペースで続けるのです。