我が家の庭には植えた覚えのない草木が突然に芽吹くことがあります。恐らく、これは鳥たちからの贈り物です。庭には早朝から日暮れまで、ひっきりなしにいろいろな鳥がやってきます。メジロ、シジュウカラ、コゲラ、ムクドリ、オナガ、ヒヨドリ、ウグイス…時にはどこからか逃げ出してきた大きなインコが姿を見せることがあります。そして、鳥だけでなく、風に運ばれてきたり、時には庭に入れるために買ってきた腐葉土や培養土などに植物の種が紛れ込んでいることもあります。
鳥たちからのプレゼントの中で一番多いのが「万両」です。緑の葉に赤い実を付ける低木です。ちなみに葉よりも上に実をつけるのが千両、葉よりも下にぶら下がる様に実を付けるのが万両で、我が家には万両ばかりが運ばれてきます。随分とお金持ちになりました。以前は庭で見つける度に植木鉢に移植をしていましたが、このままでは万両を植えた鉢が無限に増え続けることが分かり、止めました。庭に芽吹いた万両をそのままにしておくと、適当な数、大きく育ちますが、それ以外はいつのまにかいなくなってしまいます。中には白い実を付ける万両(シロミノマンリョウ)が我が家に送り込まれたこともあります。また、以前家で一緒に暮らしていたコザクラインコが死んでしまい埋葬した場所に万両が芽吹いたときには、何だかほっこりした気分になりました。この万両はワイン色の様な変わった色の実を付けます。
次いで鳥たちが我が家に頻繁に運んできてくれるのは「桑」です。私が暮らす街から遠くないあたりでも、今から50年程前までは養蚕をしていた様子なので、まだ、その頃の名残で方々に桑の木が残っているのかも知れません。桑の実は「マルベリー」です。ジャムにしても、生のままでも食べることができます。また、若い葉は天ぷらでも食べられると聞いたことがあります。今から20年も前に庭で芽吹いた桑の木は徐々に植えられる鉢を大きくしながら、ついに樽の様な大きなプラ鉢を終の棲家とし、今では高さ3mにもなっています。今は冬ですべての葉を落としていますが、まだ春浅いころに小さな黄緑色の若葉を付け、これが感じのよい葉に成長し、5月には黒ずんだマルベリーを実らせます。ここには沢山の鳥たちが来て、大騒ぎとなります。
それから、ブルーベリーが芽吹くときもあります。これは近くにあるブルーベリー畑で鳥たちがもらった分け前の様子です。ブルーベリーは生育させるのが難しく、芽吹いたものを大事に移植をしても、上手く育った試しがありません。
庭木にしたい木として人気が高いシマトネリコも、我が家に勝手にやってきます。これはお隣さんの木から種が風で運ばれてきたものです。とにかくこの子達は生命力が強いのです。気付けば至るところに、シマトネリコの小さな芽が出ています。石の階段の隙間の様なところからも、所かまわず芽を出すのです。これがあっという間に成長し、更には枝を切ってもお構いなしに、その切り口から、今度はリベンジとばかりに密集して枝が生えてきます。ほぼ、侵略です。
鳥たちの力を借り、風に乗り、そして、微力ながらも私も力を貸し、植物は長い長い旅を続けていきます。生命というのは本当にスゴイものです。
「もう少し役に立つ植物が勝手に生えてこないかしら」とカミさんは言います。今度、鳥たちを集め、植物図鑑を開き、次はこれを頼むよと言い聞かすことにします。